小説「変わり者たちは夜の学校を楽しむ」『変わり者たちは夜の学校を楽しむ』 夜の学校に忍び込んで鬼ゴッコをしよう、と言ったのは、変わり者として有名な先輩だった。結局、その馬鹿な提案に付き合わされたのは、これまた変わり者として有名な僕の友人と、その変わり者たちからも「変わり者」と認められている僕だった。 学校に忍び込み、渡り廊下を横切ろうとした時だった。先輩が、足を止めた。 「今、そこのトイレに電気がついてなかったか?」 まさか、と言いかけたその瞬間、トイレの方から物音がした。僕がビクッとしたのを見て、先輩はにっこりと天使のような…もとい、堕天使のような微笑を浮かべた。 「キミ、見ておいで」 「いッ嫌です!先輩が行けば…」 「僕はキミがわぁわぁと騒ぐのを楽しみにしているんだ。だから、思いっきり怯えておいで」 懇願するような瞳を友人に向けると、彼は僕を助けるどころか、先輩の言葉に頷いている。 先輩に背中をどつかれ、僕は渋々トイレの前に立った。おそらく、この不安と恐怖は一生忘れないだろう。そしてこの薄情な友人たちのことも…。 ドアノブに手をかける。と、何の抵抗もなく、内側からドアが開いた。そして何か白い塊が僕の方へスーっと近付いてきた。それは人魂…いや、幽霊!? 「うわぁっ!」 僕は壁まで後退ると、そこで腰を抜かした。白い物が中庭へ移動する。先輩は、今まで見せたことがないような真剣な顔で、それを追いかけていった。 暫く呆然としていると、友人が手を差し伸べてくれた。 「君はあれが幽霊にでも見えたのかい?」 この状況で冷静にそんなことが言える友人が信じられなかったが、とりあえず手を借りることにした。その手は言葉とは裏腹に温かかった。 それから先輩の帰りを待たず、僕たちは引き上げることにした。先輩のことだから明日は一日中自慢話だ、と友人が笑った。 翌日、朝のH・Rで先生の話を聞いて、僕は驚いた。 「昨夜、渡り廊下のトイレ…出たんだよ、……トイレットペーパー泥棒が」 慌てて後ろの席の友人を振り返ると、彼は、全てお見通し、とでも言いたげな余裕の表情を浮かべていた。 「君はあれが幽霊にでも見えたのかい?」 僕は漸く安堵の溜息と笑いが込み上げてくるのを感じながら、泥棒をつきだした先輩が夜の学校にいたことをどう説明したのか、それだけが気になっていた。 |